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page t-39   into Snow (回想)

太陽は腰が重い。
居座りすぎた夏至午後七時、
富ヶ谷交差点の道路は相変わらずキラキラしている。
夜が、後ろで、つかえてるのに。

蒸した身体を、てのひらで仰ぎながら、
ふと真裏の季節に遡った。
完成したinto snowを観て、いろいろと思い出すことがある。




今年はじめの真冬の旅は、列車が印象的だった。
たとえ突然時間変更されても、トラブルがあっても、
変更やトラブルは、たんに、自分にとってのアクシデントだった。
目的や予定、その根本にある欲を一度リセットしてしまえば、
きめつけていた立場から外れれば、
「ただの出来事」になった。
2時間の足留めで出会ったキヨスクの雑誌や、
駅の雑踏がどうして退屈であろうか。
きめつけていた立場から外れれば、
どんなふうにも見ることができた。
全体から見れば、「ただの出来事」になった。





誰もわたしを知らないということは、淋しいようで自由である。
いや、やっぱちょい淋しい。
自由になるまで、時間がかかる。
誰もわたしを呼ばないので、自分の名前をとなえてみる。
英語、仏語、チェコ語、独語。旅中よく聞いた言語である。
いかに自分というものが、
他者から認知されて、他者と区別されて、他者から呼ばれて、
はじめて存在しているかに気付く。
わたしわたしと言っているわりに、
肝心なわたしを、わたしは、鏡でしか見れない。

「自分」の境界線がよどむ。
一面にひろがる、森の雪景色を見ると、
なんか名前とかもただの決めごとだなぁ、とあやふやになる。






わたしってだれ、わたしってなに、きみ?わたし?だれってかあれ。なに?


ほとんど、自然みたい。
空も森も雪も、このなんか、乗ってる、まばたきしてる物体たちも、同じ。
同じ呼吸、同じ波長、みんな一体かもしれない。
ああ、自由!







…だと思ってたのに。
プラットホームに降りたわたしは、すぐ目にはいった、
ショーウィンドーにならぶマフィンを食べたいと思った。
スーツケースをひっぱりながらホテルを探す道、
あら可愛いお店ね、、あとで行こう、、あれ欲しいかも、、、と思った。
自分のホテルの隣のホテルのエントランスがすごく綺麗で、
いつかここに泊まりたい、と思った。
可愛いだとか、綺麗だとか、欲しいだとか、泊まりたいだとか、
あらあら、欲と思考に支配されちゃった。
まわりとの境界線が濃ゆくなり、「自分」が浮かび上がる。
すると突然、欲張りはじめる。
そんな時、空も森も雪の呼吸も聞こえない、
さっきより、ひとまわりもふたまわりも小さな世界で、じたばたしている。








『わたし』は買物にでかける。
しかし、ものすごい雪がふぶいてきて、路面は凍結。
氷った顔でニヒルな笑顔をつくってみる。
不思議と思考も氷りはじめる。
可愛い綺麗だの、欲しい欲しくないだの、もうどーでもいーよ。
さぶいよ!
火を、毛布を、スープを!!安全確保を!!
ただそれだけ。
今は足の指先の軽傷火傷が大問題。
感覚の世界、生存願望の世界、動物的な世界。
そんな時、空も森も雪の呼吸も聞こえず、
頭の、欲についての会議も聞こえず、
もっともっと、小さい、核になる根本的な世界でじたばたする。









どんどんどんどん、小さい世界になっていく。
はじめにしたって、
あたたかい列車の中、状況が満たされている中で感じていた、自由。
所詮は、マズローピラミッドの上のほうに身を置いていた、自分。
それを自由っといっていい??自由ってなに??
欲望は、満たすことでしか、消滅しないのですか。
答えを見つけに、いっそ、滝にでも打たれにいこうか。(さぶいよお…)






この悶々とした気持と、諦め。
なんとか表現できないかと、撮った写真を眺めつつ、
ドレスデン→ベルリン間の車内で音楽と絵コンテを書き留めました。
flashで見事に具現化してくださったのは、equinoxの三浦伊織さん。
1の提案で100をくみ取ってくださいます、いつも有難うございます。
まわりと同一化した安心感と恐怖を、
ポートレイトのデザインで、形にしてくださったequinoxの西澤アキコさん。
やりとりをするメールに体温がありました、感謝です。
レコーディングにつきあってくださった、エンジニアの井野健太郎さん、
ほんとにありがとね。







まわりを見渡し、しれっとボリュームあげめにしてみて^^
メニュー、ギャラリーのフォトグラフ→バービーアイコンから、雪の中へ。
by akiha_10 | 2006-06-22 16:10 | Trunk
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