石畳の配置に靴を合わせて意識的に歩いてみる。
![]() 昔からよく横断歩道の白いところだけを踏んで渡れるか、 というようなことをやっていた気がする。 車に注意しなきゃなのにね。 よ、よっ、よっ、っと区切りの線を 踏まないで進むためには、 相当の集中力がいって、きっとこれ、筋力もいる。 おっっと、とよろめきながら、 ベルリンで、とても阿呆、でも、なんて心は平和…、 いったん止まって感謝した。 一人でいることと、孤独は違う。 一人で旅して、夜とかなにすんの?とよく聞かれる。 ごろごろする、日記を書く、本を読む、ぼーっとする。 これらの、ひとつひとつの行動が、驚くほど冴えて楽しいのです。 孤独どころか、とても穏やか。 べつに自分とか人生とかを積極的に見つめなくても、これらのことで忙しい。 一人旅の場合、瞳メモリへの栄養補給にくわえて、 この時間も楽しみなのだ。 東京はいつも水がコップから溢れ出ています。 大きな流れを見ようとすると、大波にのまれてうまく留まれないこともあります。 留まれないし、だからといってうまく乗りきれないし、ああどうしよう。 集中力が散漫になる。 可能性に満ちている街だから、パワーがあれば最高に楽しい。 可能性に追われている街だから、パワーがなければ最高にきつい。 そんなところよね。 可能性が狭められると自ずと集中します。 旅先では、できることが、制限される。 そうすると、それしかないから、力の注ぎ口は絞られる。 テレビも携帯もPCもお菓子も漫画もない図書館では頭が冴えたように。 目の前に集中すると、落ち着きますね。 不足しすぎず、与えられすぎない、という超微妙なバランス、贅沢なライン。 いったんあったものを自ら削ぎ落とすことはなかなか、難しいけど。 ![]() そんな大洪水の東京にそなえて、 頭と心を切り替えつつ、帰りの便。 御飯も終わって、機内消灯時間。 毛布をかぶって目をつむっていたら、 まわりからピッピコピッピコ聞こえてきました。 誰かの腕時計のアラームかしら…と半分意識が遠のく中、 ピッピコの行方を、もう半分の意識が追跡する。 まわりの人たちも、止まぬピッピコに集中している気がする… みなさん、ひそひそ、迷惑そうに、ワッツ??とかなんだか言って、顔をしかめる。 ………はっ!! ま、さ、か。 腕時計を忘れた今回の旅、 チェコでお買い上げの、 あの最安値の「いけてない目覚まし時計」を ミニバッグに入れてまわってたよね? そしてそのミニバッグは、手荷物として、真上の収納の中に。 まさか、あやつ? しれっと立って収納を開けたら、 それはもう、殻をやぶった蝉のように、ここぞとばかりに鳴りわめく。 ぴっぴこぴっぴこ!!!! やっぱり! 最悪。 背後に刺すような視線を感じる。 そろそろっとミニバッグのファスナーを開けたら、 さらにもう一段階大きい音で高らかに鳴く。 びっびこびっびこっっ!!!! あたふたしながら時計をさぐりあて、必至で手で覆った。 アラームを止める時計の上のでっぱりを押そうとしたら、 なるほど、でっぱりがもげてる…それで時計が狂った。 いけてない時計は、どこまでもいけてないよ!けちったわたしのばか! なにもこのタイミングで壊れなくてもいいのに… なり止まないアラームは、わなわなさせる。 後ろの電池を外してやっと静まるが、 とっても焦って電池入れの蓋がなかなか外れない、というのはシナリオ通り。 迷惑かけまくった周囲の人たちに手を合わせる。 御迷惑おかけしました。 今すぐ、消えたい… どんだけコントだよ… 頭から毛布をかぶって、寝たふりをした。 成田着陸後、わめききった蝉の抜け殻のような、 電池ぬきの壊れた時計を手にとった。 おもちゃどけい、アラーム音量だけはいっちょまえ。 たくさんのドラマを、どーもありがとおぉーございましたぁー 時の感覚を失った身体と、時計を忘れた旅路、 時計のないホテルと、時計に縁深いカフェ、 一歩一歩に集中した高濃度な今たち、狂った時計、 舞う雪、積もる雪、手の上触れては消える、感じては消える、今あったのにもうない、 今がおわる、たび、今が降る、時間は、今の蓄積、 それは低い空の、グレーの街の、 たった今、舞った、ひと粒の雪の中のまぼろし。 いけてない時計は、空路で察した。 いままでの場所と、これからの場所。 時の感覚の変化に戸惑い、狂った。 器用でない時計は、ゆっくりとした、雪の中だけで機能したのだ。
by akiha_10
| 2006-05-08 22:51
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瓜生明希葉/INFORMATION
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