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page m-11   マンスリーパンフィクション  04


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「ああー!イエンセンのスモースナールですよね、それ!」
『うおーきもい、村上さん、テレビチャンピョン出れるよ!』
「職業病ですよぉ…イエンセン、北欧パン特集でやりましたもん。
最近、食パンなら、ききパンできそうな自分がこわいです…」
『それ、すごいね、極めてるってほんと、かっこいいよ』



「としこさんは何か、今まではまったもんはないんですか?」
『うーん、広くて浅いから中途半端なんだよね、ぜんぶ。
ミーハーだからね。村上みたいに、なんでもいいから極めてる人に憧れる』
「えー。としこさんも、誰かに憧れるんですね」
『え。そんな、私って自信まんまん??』
「いや、揺らがないっていうか。落ち込んだり迷ったりしたところ見た事ないから」
『職業病だよ〜、上を演じてるだけだよ。私が不安がってたら、みんな不安でしょ、
強気ぶってるだけ。会社とか、とっぱらったら、ただの人だし…
でもさ、あまりにも仮面をかぶっている時間が長いとさ、それが定着するんだよね、口調とか仕草とか、それこそ職業病。知らないうちに、自分の境界壁がどんどん高くなっていってる気がする。地元の友達とか会うと、たまに自分がどんな人だったか、忘れてるような気がするんだよね…でもさ、それは過去の自己イメージであって、それが素顔っていうのも違うんだよねぇ。素顔とかって、あるようでないかもしれないし。これは本当に自分じゃないって思いたいだけかもしれないし…。人は時間と環境で変わるのか、変われないのか、とか非常に気になるところなの、いま』
「もんすっごい、自問自答ですね」
『ああ、そうそう、誰かにただ喋りたいだけ。適当に聴きながしてよ』





「へえ、迷い無く仕事が生きがい、みたいに見えたんですけど、
そんなこと考えてたんですねー」
『うーん、売り上げとか企画とか、具体的な悩みで頭が忙しかったら余計なこと考えないし、
楽チンなんだよ。ふっと襲われる隙間が一番こわい。
考えたところで、なにも変わらないのに、襲われる。
だから忙しくすんの。これも防御なのよ。
私とおなじ、村上もがんばっちゃうオトコンナだから、
いつかふっっと襲われる時がくるよ、きっと。立ち止まるのがこわくなんの』
「はあ…今はピンとこないな…
ちょっっと、としこさん、ペストリーちぎっって食べる人はじめて見ましたよっ、
パイ生地が重なっている意味ないじゃないですかぁ…
ミルフィーユを一枚ずつはがすような食べ方して!ぼろぼろこぼれてますよっ」





ツルルルールルルルールルルルー


『ああ、そう?へん?お。妹からメールきた』
「としこさん、意外。モリコーネですか」
『彼氏がね、ニューシネマパラダイス大好きでね、この着信はおそろなの。
いるもんだよね、私のたっかく積み上げたプライドとかこだわりとか、
ぶっこわして入ってくる人がね、
私一人だったら、絶対これ選ばないもん。
かったい境界壁をぴょんっと飛び越えてさ、私を丸めこむんだよ。悔しいけど嬉しかったり。
素顔も仮面もなんもない、全部自分、ってなれんの。
この音が、唯一の期待なんだな。一人じゃないかもっていう』
「んー、ちょっといい話じゃないですか!万事順調じゃないですか」
『そう?毎日少しずつ淋しいよ。
あ、ちょっとメール返していい?
なーんか最近は妹うかれてんだよねー
誰だか知らないけど、
おそろいのキリンのサファリストラップとかつけちゃって、
まあ、姉も姉なら妹も妹…おそろい好き。あは』







「…へえ…」
『さ、私行くけど、まだいる?うわ、けむいね、窓あけとこ』
「いや、もうちょっとしたら行きます」
『じゃね』
「あ、としこさんっ。としこさんの妹さんってぇ…、」
『ん?』
「いやっ、なんでもないです、私コーヒー飲みこんだら行きますから…」

(fin)



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今月のパン イエンセン@代々木八幡
by akiha_10 | 2006-04-28 23:46 | monthly
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