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page d-28   楽しいときは、ただ楽しい 

映画「プロデューサーズ」を観た。
ミュージカル映画なので、音楽満載、衣装もゴージャス、
「楽しい」という感想に尽きる。


「楽しい」は物議を醸さない。
負の感情は、その正体を探ろうとする。
なぜ悲しいのか、これは淋しいというのか、なぜこう思うか。
また負でもなく、正でもない感情に対しては、
その感情そのものが不思議の対象になる、
この気持はなんだろう、と。


「楽しい」感情は、ただ楽しい。
ああでもない、こうでもない、とかいう次元をかるく飛び越え、
思考を覆ってしまう。
一番感覚寄りで、ニュアンス的で、実体のない、胡散臭い感情。
だって楽しんだもん!
「楽しさ」をその場で検討することはナンセンス。
ちょっと待って、なんで楽しいんだ!?とかいらない。
こうみると、人は基本的に、楽しいことが大好きだね?と思うのです。
甘くて美味しくて、気持よく、危険ともいえる感覚。


「プロデューサーズ」に話を戻すと、
「楽しい」という強力なエネルギーは、欠点も覆い隠すかわり、
良い点の詳細も覆ってしまうのか、
これといって感想が浮かばないというのが正直なところ。
ひっかかりも、圧倒的な「楽しい」パワーにのまれちゃった。
ちょっとした感覚の麻痺もあるため、
これがあって、こう感じて、という脳と心の正しい順路がショートカットされている。
「楽しい」は雲のように、目に見えない幸福の粒子の集合のようなもので、
遠くから全体の姿としてしか掴めず、中はスカスカ、その上いつか消えてる。
刹那的で、幻みたい。
だから、そればっかりでも危険な気もするけれど、
「楽しさ」の正体なんて当事者にとってはどうでもよく、
「楽しい」リアルな感覚に漂う時間はやはり魅力的。




ひっかかりがないと言っても、ひとつ、
「プロデューサーズ」の劇中劇、「春の日のヒトラー」で印象的な台詞がありました。
「政治もまたショービジネス」という言葉。
似たようなのを、どこかで聴いた。
偶然なのかミュージカルつながり、
「シカゴ」でリチャードギアは「裁判はショービジネス」と言い、
同じくボブフォッシーの映画(おそらく「オールザットジャズ」)
の主人公は「人生はショービジンネス」と言ってしまっていた。
そうだ、すべてのものは、
この世に派遣された旅人の視点からいうと「ショー」であり、
喜劇あり悲劇ありのエンターテイメントだともいえてしまう。
目の前で繰り広げられる現実のほうが、
小説よりゲームより映画よりゴシップよりニュースより、
よほど奇妙と奇麗に満ちたドラマであるからだ。


こうして自分のまわりで起こる事をガラス越しに観てしまう旅人の癖は、
どこか「人ごと」みたいに無責任でいようとする究極の弱さの現れなのか、
もしくは、それを通り過ぎて、
徹底して「ショー」を楽しもうとする、野次馬根性に近い好奇心の現れなのか。
それについては、表裏一体というか、同時に発生している気もする。


どちらにせよ、自分の心に直球で当たるまいと、
出来事がふりかかる前に、トランポリンを敷いておくような見方であり、
つくづく自分のちっちゃさを想うのだけれど、
しかし、それで少しでも穏やかに楽しめるならば、
弱さを認めて、トランポリンでもこんにゃくでも仕込もうじゃないかと思う。
結局は、心次第。
自分が「楽しい」と思えば、ぜんぶ楽しい。
「たいしたことない」、と思えば、たいしたことない。



そうは言っても経験不足、生き不足。
渦中にいる時はなかなかコメディにできなかったり、
どっぷり「ショー」に入りこんでしまったり。
そんな、不器用で単純で矛盾ばかりの、自分の可笑しな心模様。
ん?
すこし離れてみると、こんな心模様がすでに、充分「ショー」かも…。
なんだなんだ、「ショー」に身をおいている自分を観察している自分も、
もうひとまわり大きい「ショー」として観られていて、
それを観ている自分もまた、
もうひとまわり大きいところで「ショー」にされてるの?
人形からまた小さい人形、また小さい人形…と
ロシア人形、マトリョーシカの逆バージョン!
一体どこに自分が在るのやら。やれやれ。




その時々の「ショー」を努めて「楽しく」している人は、いい。
だから笑いづくりに一生懸命な友達のことが、すき。
バカバカしく、享楽的でも、わたしは好き。
真面目で真剣に、悩むことが美徳とされている空気、
なんだか、そうしなきゃと思い込んでいるだけな気がするのです。
そんなに甘くないよ、と水をさされても、
それは実際に感じたらそうだし、感じないかもしれないこと。
厳しさとか世知辛さを検討するのは、まあツマミ程度に。
どれだけ笑い飛ばせるか、そっちに頭をつかうほうが素敵。
これもたくましさの一つだと思うのです。
あれ、なんの話だったっけ?
くくくっと顔を赤らめて帰る夜の、清清しさよ。




おっと。ナンセンスにも、
「楽しさ」を分析している自分に今気付き、
頭でっかちな自分に嫌気がさしたところで、おわりたいと思います。
by akiha_10 | 2006-04-15 09:37 | Daily thinking
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