<< page t-31 ... page f-5 「ク... >>

page m-9   マンスリーパンフィクション  02

『正直、業界全体は厳しい状況にあります。page m-9   マンスリーパンフィクション  02_a0028990_2165083.jpg
しかし、ライフスタイルが多様化してきた現代にこそ、
わたしたちが掘り下げて伝えることがあると信じて、
誌面づくりに取りかかっています。
でわ、ここで君たちの先輩となる、
入社三年目の企画編集部から、現在の仕事内容について……』





なにをそんなにメモしてるんだろ…。

由加は頬をつねりながら目線だけを左右に動かした。






「ただいま御紹介にあずかりました、企画編集部一之瀬です。えっと、僕がこの業界にはいったのは、やはり雑誌がとても好きだからで、学生の間はありとあらゆる雑誌を読みあさっていました。仕事はやっぱり、これだけは人に負けない、っていう好きなことを生かすべきです!」

いやいや、そのね、なにが、好きかっていうのが分からないんですけど。
そんなのないし。
あー。いつものように質問の手もよく挙がる…
なんか…あたし10歩くらい遅れている…。

由加は、大人数が、同じところで、同じものにむかっている場がこわくて仕方ない。
いつも取り残されるからである。
正直、楽ではない。







「では説明会は一度お昼休みをはさんでディスカッションなので、
1時にグループごとに集まってくださいねー。」

お昼ごはん…あーあれは無理。
あの表面を探る会話は無理。表面的な仲間意識は無理。
連絡先交換してもどうせ用ないしょ。
外の空気が吸いたい。

由加はそうして誰かを嫌うわけでもなく、
無理している自分を自分で見るのが嫌だった。
ほら、取り残されているでしょ、っていうのを再認識するからだ。






あーあー超足痛いよ。
ストッキング、スースーするしさ。
生クリームメロンパン、暖房で生クリームの元気がない…でもおいしっ。
こうやって街を見ると、スーツって案外多いんだな。
そーいや受験の時も、受験生ばっかり目にはいったしな。
そういうもんかな。






由加は電源をいれ、センターに問い合わせる。
なんとなく携帯を眺めるのは、おひとりさまの、定番のつくろいである。

(ゆかちん、きょうのイベント、もち行くよね??
バイト早めにおわったから先に行っとくでし!
きょうは槙ちゃんがまわすらしいぜ^^!)

超行きたい。超逃げたい。
今すぐみっちゃんに、ありえねーって愚痴りたい。
後ろを向けばすぐ、日比谷線の入り口があることも知っている。
一本で恵比寿に行けることも知っている。
あーどーしよどーしよ。













由加はチカチカ赤になろうとする横断歩道をわたった。
ギリギリまだ青。いやもう赤なのか。
黄色のところで、揺れまくる。
12:52、携帯の電源を切る。





後ろ髪をぎゅうぎゅうにひっぱられながらなお、
いまは目の前渡らなきゃ。
(fin)


page m-9   マンスリーパンフィクション  02_a0028990_2364166.jpg



今月のパン
成城石井@each place
by akiha_10 | 2006-02-28 10:13 | monthly
<< page t-31 ... page f-5 「ク... >>