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page m-12  マンスリーパンフィクション 05

こんな時に限って早起きだ。a0028990_12544178.jpg
昨晩、というかさっきまで焼酎を飲みつづけ、
もうほとんど何もできない状態で
こってりと眠りについたはずだった。
予定と願望では、起きるのは夕方頃であった。
ぱちりと開いた目で天井をみつめた。
体の奥底でキリキリと神経が片足で立ったままである。
たぶん、眠っている自分を、側で見ていた。
白雪姫であり、小人であった。
海の表面をかするような眠りは、
妙にすっきりとした目覚めで陸にあげる。
身体はぐったりしているのに、うまく沈めない。
だから起きた。

久し振りの休みは晴れていた。
こんな時間に起きてどうすんだよ、と
とし子はコーヒーを持ってベランダに出てみる。
道路の工事をしている、ビルが改装中である、
新しい看板がある、コンビニは繁盛、サボテンは茶色くなっている。
太陽は、左斜め30度くらいのところから、昇る。
ああ、まぶしい…と顔をふにゃっとさせた。
ボアのラグマットを洗って干し、加湿器をしまい、
衣替えをし、身のまわりの季節を入れ替えた。
丁寧に暮らそうとすると、それだけで時間は膨大にかかると思った。






網戸にろ過された風が、ベッドに横たわった膝のところにちょうどよく当たる。
携帯のメモリーの「あ」から下にボタンを押し続けて、
友達が少ないことをあらためて思い知った。
村上呼び出そうかな、ああ、出張か。あーどうしよう。
この空気を破るには、すこし思いきったことをするくらいがいいと思った。
一年くらい会っていなかったが、サヨリの番号はなぜだか易しく見えた。
ほとんど期待はしていなかったが、勢いで押す。
朝っぱらから繋がるサヨリの声に逆にびくっとした。
サヨリもこちらの意外な電話に驚いたようで、
今バイト行くところやから…と、話は急展開し、
サヨリの仕事終わりで会う事になった。
今日の自分の状態は、
久し振りのサヨリと会うにしてはエネルギー不足であったが、
今日はとりあえず誰かに会ったほうがいいと思った。







昼過ぎにサヨリが働く池尻のカフェに着いた。
ガラス張りの店内をのぞいているところを、サヨリが気付いて
ギャルソンエプロンをほどきながら近寄って来る。
「トシボー!今終わるところやんねん、ちょっと待ってて」
上京したての一年前より洗練されたサヨリであるが、
全く変わり無い空気に、
ガラスに映ったくたびれた今日の自分も、
言い訳しなくていい気がしてきた。


「一年ぶりちゃう?元気してんのー、今日は休みなん?」
「そうそう、そうなんだ、なんか急に人と会いたくなってさ。
サヨリは続いてるんだねーカフェ」
「いっぱいいっぱいやねんけど。
まあ、嫌なことはないから、なんとなくここまできてる、って感じ。
自分でカフェ経営、みたいな淡い夢はどこにいったんやろ、
ってゆうのはあるけどね…ステキライフとは程遠いで、あは」
「まあねー幻想を脳内で夢見ているうちが一番楽しいよね」
「トシボー、なんか雰囲気変わった??」
「ああ、今日はね、衣替えして学生の時の洋服がでてきてさぁ。
あーこんなの着てた!と思って、まだいけるかどうかと着てみたわけよ」
「どうりで。ハイブランドのイメージのトシボーが古着って、めっちゃ新鮮やわ」
「いやね、なんか洋服とか、かもす雰囲気とか、
結局その環境になじむためだったり、多少見栄をはるためだったり、
なりきったりするためのもんだと思って。
自分が弱ければ弱い程、洋服で武装してたってのはあるんだよね。
それを楽しんでいた部分もすごくあるけど、結局それどまり」
「はぁ、よう分からんけど、やっぱトシボーいろいろ考えてるんやね。
まあ、でも、正直一年前、すごい緊張してん。
一年前、トシボーすごい大人に見えたし、忙しそうやし、
なんか、ごめん、あの時めっちゃ居づらかった」
「あーあー。ピリピリしてたかもね。そういう自分も好きだったし。
でももう、そういうの最近減ったかもね。
そう見せなきゃいけない時もあるけど、まあ、成長、成長。
自分を大きく見せるより、こんな小さいけどひとつ宜しく、みたいな方向転換よ」


「でも、なんで今日突然?なんかあったん?」
「あーあー。もうさ。天気いいから吐いちゃうけどね、昨日ね、私ふられちゃったのさ」
「えー」
「なんかね、前の彼女と戻るんだって。もう、ぜんっぜん知らなかった。
会ってるのとか、連絡してるのとか。
映画監督目指すからって半ば転がりこんで、あまり働かずでさ。
私が仕事を持ちこんじゃ気分害すと思って、
夜ドトールで企画書書いたりして帰ってたんだよ。
仕事も楽しくないふりをしてたんだよ!
もう、ほんっとカチーン通りすぎて、ガビーンまで戻って、閉口。ありえん!」
「ほんと最低…でも、なんでそんな奴好きやったん?」
「…わからへんけど、こういう時、理由とか、なくない?…」
眼鏡を外して、とし子は両手で顔を覆った。
鞄が震え、モリコーネが奥で鳴った気がした。


「一緒にいるの、むこうは楽しかったんかなぁ…」
サヨリはなにも言えずに、灰皿の縁に置かれた、煙草の、
火が侵食していく部分の、距離をのばした先っちょが、
くたっと落ちるのを見た。








店を出るとき、夕立ちが降り始めた。
「沈黙に付き合ってくれてありがと、また連絡するね」
「ああ、トシボー、すっごい美味しいパン屋があってん、
ちょっと遠いけど、今から行くつもりやけど一緒来いへん?」
「サヨリもパン好きだねーせっかくだけど、雨だからやめとく」
「うわ、そういうとこ全然変わってへんな。
えー絶対うまいから、いかへん??」
「んー、ま、考えるより動くほうがいいか。いこっかな」
「そこはねー、ラウンドっていう筒のパン、食べ出したら止まらんでー
…あとね、惣菜パンも激うまやで…」
「うわっ、でた、折り畳み傘。心配性サヨリ、も変わらないねー」
「そんなんいうなら、いれないっすよ」



そしてふたりは、押し合う傘の中で、めずらしく虹を見る。
(fin)



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今月のパン Michi@横浜市青葉区
by akiha_10 | 2006-05-31 13:13 | monthly

page s-20    惜しみない香り

じゃん。a0028990_21201376.jpg
韓国訪問記で、
書かずしては終われません。
おにく…美味かったです。
韓国では、ひとつメインを注文すると、
キムチやサラダなど、サイドメニューみたいなものが
全部ついて出てくるんですね。
焼肉奉行らしき店員さんが、
手際よく焼いて切ってくれました。




飛行場からホテルまで送ってもらう移動中、
現地の方が、日本人は「グルメ、エステ、買物」の質問ばかりで、
がっかりするの、とおっしゃっていました。
もっと、韓国の歴史的なお城などを見て韓国を知ってほしいそう。
そうよね、そうよね、と頷きながら(でもやっぱ焼肉たべたい、と思いながら)、
ケミィに貸してもらった手元の韓国ガイド本は、
グルメ、エステ、買物、のページの右端が折られており、
あ、ど真ん中がっかり賞や!と、本をきもち隠して読みました。


予習十分なケミィに連れられて、
中心地明洞から地下鉄に乗って焼肉を食べに行く事になりました。
よく、韓国は飛行場からキムチの匂いがする、
なんて聞きますが、そんなまさかです。
しかし、さすがに飛行場にキムチ臭はないものの、
地下鉄でキムチパワーの威力を思い知るのです。
地下鉄に乗った瞬間、ケミィと目をお皿にして
「キームーツィー」と声をそろえて言ってしまったほど。
車内はニンニク香で充満していました。
免疫がないわたしたちは、30分ほど揺られる車内で途中から半目になり、
「はやく、はやく、我らにもニンニクを!」という想い。
まいってるお互いの顔を見ながら、笑いが止まりません。

駅に着いて脱出し、新鮮な空気を目の前にした、
ふたりの息が荒いこと!
それがまた、笑いに潤滑油を注ぐのです。



目的の焼肉店を探すのも、なかなか難関です。
アルファベットか漢字表記ならまだしも、
看板のハングル文字は見慣れず、読めずで、
形合わせ、みたいになるのです。
人に○がふたつあるやつが、頭文字よ。なんて言いながら、探したものです。
似たような文字が多いし、文字じたい混み合ってるし、むつかしい。
アラビア文字とか、もっと大変よね、ミミズがふたつ、とかだもんね。

無事に到着し、美味しく焼肉を頂き、ニンニクをしっかりと摂ったところで、
帰りの地下鉄は超楽勝。
ニンニク臭、みんなで醸せば、におわない。



他にも、おなじみビビンバやソロンタンも頂きました。
一番、好きだったのは参鶏湯(サムゲッタン)。
博多の水炊にとても似ています。
鶏の中に栗やナツメ、もち米がはいっていて、
うす味の鶏スープに少々お塩をちらしながら食べます。
やさしい味。



もうひとつ。a0028990_21165476.jpg
ロッテ百貨店にクリスピークリームの
ドーナツがはいっていました。
見て。ドーナツ工場…
工場はなんてかわいいんでしょう。
ドーナツ、まるくてかわいいね。



工場ウィンドウにはりついて並んでいたところ、
揚げたてドーナツを配るサービス実施中で、
ケミィとやったやった、と言いながら食べました。
パンでもなんでも、焼き立て、揚げたては反則よね。
超おいしい!
クリスピードーナツはアメリカで親しまれている庶民ドーナツ。
ドーナツプラントより、お菓子寄り。
あまいけど、軽いから、ついつい食べちゃう。
かつてクリスピークリームドーナツは、わたしの癒しでした。
数週間ながら、アメリカホームステイ体験中、
ディナーにはバーガーキングかKFC、という
ホストファミリーのスーパーサイズミー攻撃に正直しびれていたところ、
(頂けるだけで、有り難いのだけど…!)
朝食用にと、用意していただけたこのドーナツが、
どれほどわたしに明日への希望をもたらしたことでしょう。
朝が、楽しみ、、、ああ、こっそり今食べちゃおうか、
とわくわくしたものです。
(これまたアメリカンフードであることには変わりないのだけど……)。


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いつかの旅がドーナツでくるくるとリンクされ、
あの時の、すこし苦い思い出も、
シュガーグラスの甘さに溶かされて、
あっさり呑み込まれたりするものです。
by akiha_10 | 2006-05-29 22:00 | Stomach

page d-29   after singing 5.26

先日ライヴに足を運んでくださった方、
本当にありがとうございました。

今できることに、集中して、
ひとつひとつ自分の壁をとっぱらっていきたいと思います。
先入観に自分を閉じ込めないで、向き合っていきます。

お友達とでも、恋人とでも、ファミリも、おひとりさまも、大歓迎よ。


次回は7.04
by akiha_10 | 2006-05-29 19:08 | Daily thinking

page a-14   惜しみないハコ

a0028990_23324819.jpg韓国のリウム美術館をたずねました。

好奇心旺盛ケミィのミニ連休に合わせて、短い時間で行きました。
ケミィがチャングムグッズなど買いまくらんように、
わたしが見張らな!
と鼻息をあらくしていたものの、ケミィは意外に淡白でした。
食にうるさいケミィはやはり、なんといっても韓国ごはん、
に興味がいっているようです。
わたしのリクエストも盛り込んでもらい、リウム散策は実現。
訪問10日前には予約が必要という、
すこしお高くとまっておられる印象もありながら、
「あっ、あにょはせよぉ…」と日本から電話をしてみる。
オペレーターの方が日本語ベラベラだと途中で気付き、
カチコチの韓国英語をその気で喋っていた自分に照れる。



リウム美術館はスイス、フランス、オランダの世界的建築家が、
それぞれのインスピレーションでデザインしたという、
ふたつのミュージアムと、児童教育文化センターという3塔で成り立つ。
韓国の財閥サムスンが建てた美術館で、
とにかく惜しみない美とマネーが注がれているのがよく分かります。



a0028990_23421627.jpg記憶に残ったのは、
フランス建築家ジャン・ヌーベルのMUSEUM2、その床や壁。
なんだ、この材質は、とホームズのようにしゃがんで触ってみる。
錆びたステンレスのような、すっごい微妙ないぶし銀が、しぶい。
そして、壁や階段は黒なんだけれど、
ただの黒ではなく、炭っぽい黒。
階段は、ステップごとに照明が煌々と炭にあたっていて、いとうつくし。
建物自体が美術なんだな、
と歩く瞬間瞬間を四角に囲んだ指の額にいれてみた。



そのかわり、惜しみないハコの中身、
韓国の伝統美術と現代美術の展示物そのものは、
どちらもそんなに印象に残っていなかったりする。
おそらく、ひとつひとつ見ると素晴らしいのだろう、
贅沢なハコに、贅沢な美術品、と、多少おなか一杯の構成だからね。
みんなが主張していて、しぼれない。
自分の貧乏性もあるのだろうけど、
未完成の部分やほころび、が無いというのも、いまいち集中できない原因なのかも。
完璧ばっかりだと、ちょっと息つまるもんね。
でも、建築そのものはすばらしいと思います。
財閥サムスンの「どうよ」という空気を、存分に楽しませてもらったよ。
ありがとう、サムスン!



展示物(現代)のなかで、唯一じっと見いってしまった映像作品がありました。
マシューバーニーのクレマスター3というやつです。面白いねぇこれ。
そんな中、ケミィが居場所のない空気を漂わせているので、
「お茶でもしよっか」と退出。
本気モードで美術館をまわりたいのならば、
一人かB型気質と行くべしよ。




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こちら、MUSEUM1、スイス建築家マリオ・ボッタの吹き抜け螺旋階段。
上から自然光がはいって優しく、ひたすら真っ白、幾何学模様、
ぐるぐる降りて、不思議な気分、
ヒッチコックの「めまい」がここによみがえる。
by akiha_10 | 2006-05-21 20:31 | Art

page a-13   GUY BOURDIN

フォトグラファー、GUY BOURDINの作品を観に、
東京都写真美術館に行きました。
小雨降る日の美術館は、もとからない太陽の誘惑をしっかり遮断して、
より集中力を高めているように思います。



たまたま見た新聞に載っていたブルダン展の告知の写真。a0028990_22453962.jpg
記憶を手繰り寄せると、過去に観た事があるものだった。
二年半前に行ったロンドンのVictoria&Albert Museumに、
たまたま展示していて、
その時、稲妻にうたれたように釘付けになった、まさにそれだった。
絵とか写真とか、好きなわりに、
名前とかはなかなか覚えることができないわたし。
ただ、頭の片隅にひっかかていた「好き」の磁力が、
どこからともなく、情報をわたしのとこまで運んでくれた。



彼の多くの作品に靴が登場する。
二年半前観たときは、彩度の高さや構図の面白さ、
若干歪んだ性癖をちらつかせる作品に、ただただ圧倒されるばかり。
多少冷静になった帰路で、ん。足フェチ?と思うにとどまった。
とにかく観ているだけでお腹いっぱいだったため、
ブルダンがどういう人かまでは、掘り下げるまでに至らなかった。
再びこの展に出会えて、ブルダンをすこし知る。


ブルダンはフレンチヴォーグ誌で、
主にファッション広告をやっていた人らしい。
知ってますます興味深いのは、
商業写真にしてこれだけブルダン度(個人的な作品度)が高く、
カタログ目的にして、立派にブルダンの写真集であること。
主役であるはずのシャルルジョルダンの靴はのまれ、
もはやブルダンの作品の演出小道具ともみえるが、
この写真一枚に誰かがインスパイアされたならば、
その靴の情報がなくとも、カタログとして成功しているのであろう。
だって、誰かが言ってた、ブランドはイメージを売っているんだって。



それにしても、この人、映しているのは靴というより、
商品というより、足というより、女というより、
まったく飛んで、様々な「欲望」ではないかと思う。
人の、いやーな、でも確実に底で這っているもの。
「すみませんねぇ…」と言いたくなるような、そんな気分になる。
とても、奇麗で、セクシャルなイメージ、多用されるているビビッドな赤い血、色。
欲望が原動力となる、情熱や美しさと、
その欲望の、一過性の虚しさや軽薄さが、うらおもて。
カタログ誌のトップを飾りながらも、
実はブルダン、ドレスだって靴だって、
チャラチャラしてて、一瞬で、くだらなくって、隠ぺいするための偽装…
(でもすっごい奇麗)。
と皮肉っているように思えてならない。
それは、わたしが、受け取った個人的なメッセージかもしれないけれど。



最後のディスコグラフィーのパネルを見て、わお、と思った。
彼は12月2日パリ生まれ。
わたしより55年前の12月2日に生まれています。
たいしたことないかもしれないけれど、
多分(いや絶対)、むこうは迷惑だろうけど、
いろんな偶然が重なったうえ、同じ誕生日という極め付けに、
ひとりドラマチックに、一方的に、親近感。
へぇ、そうなんだ…へぇ…ふぅ〜ん、とにやにやしながら、帰りました。





さて、わたし、来週金曜渋谷で唄います。
今回は、ひとりピアノで唄います。
これは、誰にも逃げることなく、頼ることなく、
ステージの空気とか自分の気持とか、一度全部感じてみたら?という
提案もあってです。
おぉ…と思いながらも、今ピアノをポロンポロンさせながら、
こういうのもありね、と愉しくなりつつあります。
大人めな夜になりそうよ…。うふふ。
よかったら、気軽にふらっと来てみてね。
by akiha_10 | 2006-05-18 23:09 | Art

page a-12  咲きほこる花あれば、破れちる花あり

霧雨ふく半蔵門、
連休最終日ということもあってか、
街は台風の前のような静けさを帯びている。
はじめて入った国立劇場はしっとりとした印象。
そんな空間の空気ひとつで、
身体も顔つきもなんとなく、やんわりなってしまうのだから、
人はどこの世界に身をおくかで、
なりたいと思えばどうにだってなれる気がする。





今日は日舞をはじめた、ぐまちゃんの発表会。
お着物で来場されている方も多く、
出場しなくとも空間に花をそえるようにして、
愉しんでおられるような気がします。
それはもう、セレブとかいってひやかす次元をはるかに越えた、
伝統ある、格式ある、老舗の空間です。

暗転から光がひろがった時、
舞台の中央にすっと立っていたのは、
まるで、ほこり高く天にのびる、でも、恥じらいものぞかせる可憐な花。
白塗りの化粧をし、眩しいばかりの甘夏色のお着物に包まれ、
傘をかざして佇んでいる彼女は、そう、花のように綺麗。
20分も続く長唄と三味線に合わせ、しなやかな仕草で踊る。
はじめっから、「きれい!」の感動があまりにもショッキングで、
予期せぬ涙がぼろっぼろっと、ひたすら落ちた。



親友の結婚式はこんな感じかもしれない。
ただでさえも、まぶしい美しさは、
個人的な思い入れのやすりでさらに磨かれ、
どんどんとキラメキを増していくのだ。
地元のスーパーで一緒にウインナーを試食した、ぐまちゃん、
塾をさぼってうまい棒をブランコで一緒にかじった、ぐまちゃん、
おそろいの手作りワンピースを着てた、ぐまちゃん、
罰ゲームでティッシュ配りの着ぐるみに握手をせがんだ、ぐまちゃん、
ああ、、、立派になられて!

ぐまちゃんは踊りの途中で早着替えも魅せてくれた。
甘夏色の仕掛け着物の下は、情熱的な赤い着物であった。
これまたとても舞台に映えていて、涙の量を足したのであった。
お唄の方々が声をいっそう震わせ張りあげる頃、
彼女は蝶々にさそわれて、客席に伸びた花道を舞って姿を消した。


あ、ありがとう、ぐまちゃん…。


日本の伝統文化の美しさを改めて思う。
それから、着物の魅力も。
古くから生き続けている美しいもの。
科学がどれだけ進歩しようが、どれだけ人が頭も心も甘やかそうが、
それらが与える人間の本質的な歓びや、それを感じとれる美的感覚は、
時代を越えて、そんなに変わっていない気がします。
京都とパリ(歴史の長い欧州全体)びいきという、矛盾したようなわたしの興味も、
「昔から生き続ける美」だとか、「独自の(頑固なまでの)審美眼」
に対する興味という点で一貫しているな、
と今、自分で書いて納得して、あーすっきりした、と思っているちょうど最中。





前日にジャームッシュの「ブロークンフラワーズ」を観ていました。
ビルマーレイが過去の恋人たちに持っていく花束が、
みごとに色褪せてうつるとき、
あの時の輝きは、あの時だけのものだという、
受け入れがたい事実に、静かにためらうのです。
花は破れちるからこそ、咲きほこる一瞬が美しい。
無くなる哀しさを知っているから、
抱きしめて繋ぎとめておきたいほど「今」が愛おしい。


それにしてもわたしの好きな映画にはよくビルマーレイがでています。
(ウェスアンダーソン好きだから?)
だってビルマーレイ、なんにもしなくても、
ゆるくって、つかれてて、こまってて、ださくって、だめだめーってかんじ、
でもすっごい人間っぽいもんね。すきです…。
マシュマロマンを倒したバスターズ時代の若々しさはもうなくっても、
その時、その時の味と輝きをもっています。
人は、咲いただの散っただのという一連に続く花であるというより、
年々、違う花になっていくのではないでしょうか。


film「ブロークンフラワーズ」
by akiha_10 | 2006-05-11 01:02 | Art

page t-38    into Snow 10 (last)

石畳の配置に靴を合わせて意識的に歩いてみる。a0028990_21492513.jpg
昔からよく横断歩道の白いところだけを踏んで渡れるか、
というようなことをやっていた気がする。
車に注意しなきゃなのにね。
よ、よっ、よっ、っと区切りの線を
踏まないで進むためには、
相当の集中力がいって、きっとこれ、筋力もいる。
おっっと、とよろめきながら、
ベルリンで、とても阿呆、でも、なんて心は平和…、
いったん止まって感謝した。



一人でいることと、孤独は違う。
一人で旅して、夜とかなにすんの?とよく聞かれる。
ごろごろする、日記を書く、本を読む、ぼーっとする。
これらの、ひとつひとつの行動が、驚くほど冴えて楽しいのです。
孤独どころか、とても穏やか。
べつに自分とか人生とかを積極的に見つめなくても、これらのことで忙しい。
一人旅の場合、瞳メモリへの栄養補給にくわえて、
この時間も楽しみなのだ。



東京はいつも水がコップから溢れ出ています。
大きな流れを見ようとすると、大波にのまれてうまく留まれないこともあります。
留まれないし、だからといってうまく乗りきれないし、ああどうしよう。
集中力が散漫になる。
可能性に満ちている街だから、パワーがあれば最高に楽しい。
可能性に追われている街だから、パワーがなければ最高にきつい。
そんなところよね。
可能性が狭められると自ずと集中します。
旅先では、できることが、制限される。
そうすると、それしかないから、力の注ぎ口は絞られる。
テレビも携帯もPCもお菓子も漫画もない図書館では頭が冴えたように。
目の前に集中すると、落ち着きますね。
不足しすぎず、与えられすぎない、という超微妙なバランス、贅沢なライン。
いったんあったものを自ら削ぎ落とすことはなかなか、難しいけど。



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そんな大洪水の東京にそなえて、
頭と心を切り替えつつ、帰りの便。
御飯も終わって、機内消灯時間。
毛布をかぶって目をつむっていたら、
まわりからピッピコピッピコ聞こえてきました。
誰かの腕時計のアラームかしら…と半分意識が遠のく中、
ピッピコの行方を、もう半分の意識が追跡する。
まわりの人たちも、止まぬピッピコに集中している気がする…
みなさん、ひそひそ、迷惑そうに、ワッツ??とかなんだか言って、顔をしかめる。
………はっ!!
ま、さ、か。
腕時計を忘れた今回の旅、
チェコでお買い上げの、
あの最安値の「いけてない目覚まし時計」を
ミニバッグに入れてまわってたよね?
そしてそのミニバッグは、手荷物として、真上の収納の中に。
まさか、あやつ?


しれっと立って収納を開けたら、
それはもう、殻をやぶった蝉のように、ここぞとばかりに鳴りわめく。
ぴっぴこぴっぴこ!!!!
やっぱり!
最悪。
背後に刺すような視線を感じる。
そろそろっとミニバッグのファスナーを開けたら、
さらにもう一段階大きい音で高らかに鳴く。
びっびこびっびこっっ!!!!
あたふたしながら時計をさぐりあて、必至で手で覆った。
アラームを止める時計の上のでっぱりを押そうとしたら、
なるほど、でっぱりがもげてる…それで時計が狂った。
いけてない時計は、どこまでもいけてないよ!けちったわたしのばか!
なにもこのタイミングで壊れなくてもいいのに…
なり止まないアラームは、わなわなさせる。
後ろの電池を外してやっと静まるが、
とっても焦って電池入れの蓋がなかなか外れない、というのはシナリオ通り。
迷惑かけまくった周囲の人たちに手を合わせる。
御迷惑おかけしました。

今すぐ、消えたい…
どんだけコントだよ…
頭から毛布をかぶって、寝たふりをした。








成田着陸後、わめききった蝉の抜け殻のような、
電池ぬきの壊れた時計を手にとった。
おもちゃどけい、アラーム音量だけはいっちょまえ。
たくさんのドラマを、どーもありがとおぉーございましたぁー


時の感覚を失った身体と、時計を忘れた旅路、
時計のないホテルと、時計に縁深いカフェ、
一歩一歩に集中した高濃度な今たち、狂った時計、
舞う雪、積もる雪、手の上触れては消える、感じては消える、今あったのにもうない、
今がおわる、たび、今が降る、時間は、今の蓄積、
それは低い空の、グレーの街の、
たった今、舞った、ひと粒の雪の中のまぼろし。


いけてない時計は、空路で察した。
いままでの場所と、これからの場所。
時の感覚の変化に戸惑い、狂った。
器用でない時計は、ゆっくりとした、雪の中だけで機能したのだ。
by akiha_10 | 2006-05-08 22:51 | Trunk

page s-19  おこげに焦がれて

ひさしぶりに横浜中華街に行きました。
肉まん、あんまんはモクモクと蒸しては寄ってき、
くいしんぼうを誘惑するのです。


おなか、すいたよ…目線と足は誘惑されっぱなしだが、a0028990_14118.jpg
この辺に少々詳しい中華街マスターは目的地まで足早である。
お店は六福楼という上海ベースの味付けのお店。
比較的人通りの少ない路にある、
食堂っぽい店がまえが、いかにもマスターチョイス。
とても美味しかったのは、「おこげ」。
じゅっという音におなかは鳴ります。
この音、聴いておいしいね。
海鮮のウマミがでていて、食べるたび惜しみ無くカニが
口いっぱいにひろがります。
彩りに乏しかったので、写真は酢豚なのよ。
おなか、すいてくるねぇ。


山下公園まで足をのばします。
陽射しも強くなってくる季節。
ストロー素材でキャップ、の帽子を探していて、
BARNYS NYの横浜店にも立ち寄ってみました。
潮風にあたる横浜店の建物は、白い外壁にブルーのライン。
細部に施されたマリンのテイストがかわいい。
結局理想のものは見つからなかったのだけど、
久し振りにハイブランドの洋服も見て、背筋が伸びました。

今わたしは、茶葉からポットでお茶をいれるのがブーム。
帰りにブーアルと藥膳茶の茶葉を買って、大満足の横浜散策。



港北を走っていたら、a0028990_143124.jpg
スウェーデンのインテリアショップIKEAが。
マリメッコが上陸したと思ったら、IKEAもきたのね。
すごいねぇ、ジャパン。
思わず嬉しく、小雨窓越しパシャリ。
「ようこそIKEA」へと駐車場に書いてあったので
近くまで寄ってみましたが、
9月オープンだよ、と警備員さんに言われました。
(船橋店はつい最近オープンしたみたい!)
すっごく大きい建物。インテリアのテーマパークみたいに。
何階建てだろう、一日つぶれそう。
残暑の楽しみのひとつです!
by akiha_10 | 2006-05-02 00:15 | Stomach