『正直、業界全体は厳しい状況にあります。
しかし、ライフスタイルが多様化してきた現代にこそ、 わたしたちが掘り下げて伝えることがあると信じて、 誌面づくりに取りかかっています。 でわ、ここで君たちの先輩となる、 入社三年目の企画編集部から、現在の仕事内容について……』 なにをそんなにメモしてるんだろ…。 由加は頬をつねりながら目線だけを左右に動かした。 「ただいま御紹介にあずかりました、企画編集部一之瀬です。えっと、僕がこの業界にはいったのは、やはり雑誌がとても好きだからで、学生の間はありとあらゆる雑誌を読みあさっていました。仕事はやっぱり、これだけは人に負けない、っていう好きなことを生かすべきです!」 いやいや、そのね、なにが、好きかっていうのが分からないんですけど。 そんなのないし。 あー。いつものように質問の手もよく挙がる… なんか…あたし10歩くらい遅れている…。 由加は、大人数が、同じところで、同じものにむかっている場がこわくて仕方ない。 いつも取り残されるからである。 正直、楽ではない。 「では説明会は一度お昼休みをはさんでディスカッションなので、 1時にグループごとに集まってくださいねー。」 お昼ごはん…あーあれは無理。 あの表面を探る会話は無理。表面的な仲間意識は無理。 連絡先交換してもどうせ用ないしょ。 外の空気が吸いたい。 由加はそうして誰かを嫌うわけでもなく、 無理している自分を自分で見るのが嫌だった。 ほら、取り残されているでしょ、っていうのを再認識するからだ。 あーあー超足痛いよ。 ストッキング、スースーするしさ。 生クリームメロンパン、暖房で生クリームの元気がない…でもおいしっ。 こうやって街を見ると、スーツって案外多いんだな。 そーいや受験の時も、受験生ばっかり目にはいったしな。 そういうもんかな。 由加は電源をいれ、センターに問い合わせる。 なんとなく携帯を眺めるのは、おひとりさまの、定番のつくろいである。 (ゆかちん、きょうのイベント、もち行くよね?? バイト早めにおわったから先に行っとくでし! きょうは槙ちゃんがまわすらしいぜ^^!) 超行きたい。超逃げたい。 今すぐみっちゃんに、ありえねーって愚痴りたい。 後ろを向けばすぐ、日比谷線の入り口があることも知っている。 一本で恵比寿に行けることも知っている。 あーどーしよどーしよ。 由加はチカチカ赤になろうとする横断歩道をわたった。 ギリギリまだ青。いやもう赤なのか。 黄色のところで、揺れまくる。 12:52、携帯の電源を切る。 後ろ髪をぎゅうぎゅうにひっぱられながらなお、 いまは目の前渡らなきゃ。 (fin) 今月のパン 成城石井@each place
by akiha_10
| 2006-02-28 10:13
| monthly
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瓜生明希葉/INFORMATION
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