<< ニューヨークジャーナル 154 ニューヨークジャーナル 152 >>

ニューヨークジャーナル 153

a0028990_2254592.jpg


日本に帰ってお風呂に入る度にお湯のやわらかさに感動する。なにか特別なことをするわけでもなく、普段のシャンプーとコンディショナーだけで髪がしっとりとするのが手で触ってわかる。NYでの滞在が長くなると、その硬い水の質のせいか、強い紫外線のせいか、日本に居る時と同じものを使っていてもすぐに髪がパサつく。美意識の高い日本に身を置いて、常日頃自然とケアに意識がむく状況と、誰もおかまいなしのNYに身を置いた時の自意識の低下、という問題も多いにあるとは思うが。つい最近東京観光から帰って来たアメリカ人の男友達が「女の人がみんな綺麗にしていた!」と目をキラキラさせながら一言目にそう感想をもらしていた。





まあいっか、とサロンにも行かずただただ髪が伸びていたが、先日ふと鏡にうつった髪のワイルドさに「これは。」と自ら警鐘を鳴らしC.O.Bigelowに走った。C.O.Bigelowはニューヨークのグリニッジ・ビレッジにある、アメリカで最も歴史あるアポセカリー(調剤薬局)だ。オリジナルのハンドソープや、創業以来成分が同じだという、ふわっと香るレモンクリームをよくお土産に買う。パッケージもかわいい。





a0028990_2151075.jpg
ここのスタッフは皆取り扱っている商品についてよく知っている。その中でも「ジア」とわたしが勝手に名前を付けて心の中でそう読んでいる、レジに立つショートヘアの長身の黒人の女性はコスメフリークだ。金色や原色のブレスレットをじゃらじゃらとさせながら、喜々としておすすめを紹介してくれる。こういう雰囲気を知ってしまうと、なんでも手に入りやすくなった世の中で、現実的には価格やスピードも重要だが、誰から買うか、も大切な選択肢のひとつだと思うのだ。本当にそれが大好きで、それについて話すことが楽しくて仕方がない人とのコミュニケーションはその買物のモノ以上に、その一時を幸せにしてくれる。そうして考えてみると、「今日いいの入ってるよ!」と教えてくれる魚屋や、八百屋、個人店の靴屋、文房具屋など、それだけを専門的にやっている店が並ぶ昔ながらの商店街は、実はとても気持のよい買物環境といえるかもしれない。





おすすめされたのがBumble and Bumbleのヘアトリートメントとコンディショナー。随分前に髪の綺麗なコリアンアメリカンの友達が教えてくれていたものと同じだった。一ヶ月でなくなりそうなコンディショナーボトルが30$と値は張るが、確かに手触りが変わって来た。ORIBEのオイルトリートメントは、今までつかっていたAVEDAと効果の違いはあまり分からないが、とにかく香りがすばらしい。ジャスミン、エルダーフラワー、ライチ、カシス、サンダルウッド…、この精神的な楽しみのためにしばらく使い続けるであろう。


こうして髪補修強化期間のまっただ中だったためか、たまたま雑誌で見たBrazilian Blowoutというものにひかれた。ブラジル発?らしいストレートパーマで、トリートメント剤としてケラチンをアイロンで髪の内部に浸透させながら、まとまりやすいストレートにする、というものらしい。

「よし、これ行ってみよう!」と早速リサーチしてみると、日本クオリティの雰囲気のヘアサロンで施術してもらうとカット込みで300-500$とのこと。これでは今までほとんど投資していなかった髪がびっくりしてしまうと思い、もう少しお手頃で、まったくお洒落ではないけど清潔そうな、おっちゃんがきびきび動いている近所のサロンに飛び込んでみたのだった。ウィンドーには「ぶらじりあん ぶろーあうと はじめました」といったテンション感の安っぽいシールが、陽に当たって色褪せてしまった美容雑誌の切り抜きと一緒に貼ってあった。店員は皆スペイン語かポルトガル語を話していた。わたし以外の客もまた、主にスペイン語を話していた。



そうして始まった地元ヘアサロン体験。シャンプー台の椅子がリクライニングではなく、ふわっとした椅子だった。シャンプー台というか、ただの洗面台とふわっとした椅子、といったところであろうか。首を直角にして洗髪という斬新なスタイルで、ガムを噛みながらフレンドリーに洗髪をしてくれたのはブラジル人らしきおねえちゃんだった。事前にお湯の温度を確かめることもなく開始するので、冷たかったり熱かったりで、蛇口をひねる度にもれなくドキドキ感がついてきた。受付の電話が鳴る度におねえちゃんは「ちょっと待ってね」と作業を中断して電話に出る。何度かの中断をはさみながらざっくりとしたシャンプーは終わり、トリートメントをつけて浸透させるため「5分置きますねぇ〜」とまた受付へと立ち去っていった。なにしろ首が直角だから、たったの数分でもどうにも居心地が悪くて、ベストポジションを研究すべくもぞもぞと身体を動かしながら「今か今か」とおねえちゃんが来るのを待ちわびていた。



だが、5分、いや10分以上経ったと思われるのに、おねえちゃんが来ない。遠く鏡越しに映る受付にいるおねえちゃんは、未だガムを噛み続けながら、熱心に……携帯でメールを打っている?


おねえちゃん??おねえちゃん??直角、痛いよ?

そしてついには、パニーニらしきものを受付で食べ始めた。

おね、え、さ、ん? 忘れてませんかー??
直角一名いますよー??放置ですかー?


体勢が苦しくなってきてすこし首を持ちあげると、ツーっと水が首に流れてきて、なんとも言えない気持になった。鏡越しに時計を見つけ、あと少し待って来なかったら高らかに声をあげようと決めていたところ、パニーニを食べ終わったおねえちゃんがシャンプー台の横にあるお手洗いにやって来た。そして、「あ」と思い出したような一瞬の表情を見せ、何食わぬ顔で袖をまくって、トリートメントを流してくれた。


シャンプーが終わり鏡の前に行くと、ほとんどタオルドライもなく水の切りが悪いため、前髪から顔へ、後ろ髪から首へ、ツーっと水が流れてくる。そうして流れてくる水を拭いているわたしの姿を見ても、どうやらそこでは普通らしく、結局ドライヤーをかけるまで流れてくる水と戦うことになった。



ヘアアイロンをあてる施術をしてくれたおっちゃんは陽気にテキパキと仕事をするが、精度が高いとは言えない雑な機敏さで、2,3度わたしの耳の端に熱いアイロンをあてては、わたしを「あちっ!」と飛び跳ねさせる。自身の経験からして、日本であれば、ごく少量ずつアイロンを当てて念入りに髪をまっすぐにするため、アイロンの行程は30分以上はかかるというイメージ。だが「今日ははじめてだから、弱めにかけておくね。気に入ったらまた一ヶ月後くらいにおいで」と分かりそうでよく分からない事を言われ、全体にざっくりと10回くらいストレートアイロンを通しただけで、ものの10分で終わってしまった。首直角で待っていた時間のほうが長かった。


まっすぐにサラっとなった髪をまとめながら、「すごいだろう、ブラジル発なんだぜ」と得意そうに言っていたが、その行程も仕上がりも、10年以上も前に試したことのある縮毛矯正ストレートパーマと同じ(その雑バージョン)だということは心の中に閉まっておいた。実はアメリカのヘアサロンでも「Japanese straightening」という名で、日本の縮毛矯正ストレートパーマが知られている。Brazilian Blowoutは後発だと思うが、よく考えればブラジルには日系人がたくさんいるので、日本の縮毛矯正のアイデアがブラジルで人気で、それがBrazilian Blowoutという名前に取って代わってアメリカに渡って来たのではないかと勝手な推測をするのだった。





久々の、まっすぐ!a0028990_3175257.jpg
こうして数日はストレートになったのだが、ざっくりとしたアイロンのかけ方を見てわたしが懸念していた通り、数日で自然な状態(ゆるいウェーブがある状態)に戻ってしまった。残ったものといえば、サロン特有の強いパーマ剤の香りで、通常1,2日もシャンプーすれば消えるものが、洗えど洗えど10日以上余韻が残っていた。寝ようとしてベッドに横になった時、なんか異臭!!とあたりを見回したら、灯台下暗し、自分の髪だっ…。数日の間、非常に強いケミカルな香りに包まれて寝た。



結論としては、やっぱり日本っていいなー!

NYのハイエンドなサロンに行けばまた違った印象かもしれないが、日本のヘアサロンの雰囲気、スタイリストの技術、コストパフォーマンス、サービス、おもてなしの文化、とにかく全部がすばらしい!
by akiha_10 | 2013-05-31 03:44 | NY Journal
<< ニューヨークジャーナル 154 ニューヨークジャーナル 152 >>