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ニューヨークジャーナル 89

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少し前ですが、観たかった念願のストレートプレイの「War Horse」、リンカーンセンターにて鑑賞。
すばらしすぎて、お一人様号泣。

本年度トニー賞最優秀プレイ部門にノミネートされたお芝居。
イギリスの児童書であった作品がロイヤル・ナショナル・シアターが舞台化され、イギリスでは初演2007年、
好評であったため、NYにもやってきました。
舞台は第一次世界大戦下のイギリスはデヴォン、
少年アルバートが子馬の頃から可愛がって育てていた馬のジョーイを父親が軍に売ってしまう。
まだ徴兵年齢に達していない少年アルバートが、取り戻したい一心で志願して戦場に捜しに行くという物語。


ストーリーはフランダース的なよくある人間と動物の愛情ものですが、
これほどまでにシンプルなストーリー、簡素な舞台美術、音楽にあれほど涙させられた事は未だかつてありません。目を見張るのは、なんといっても芝居のメインとなる馬。

南アフリカを拠点に国際的に活動するハンドスプリング・パペット・カンパニーHandspring Puppet Company(本作でトニー賞特別賞を受賞)によって考案された馬は、3人の俳優によって操られます。
(馬の頭に1人、足に2人で操作)。ヘタすればへっぽこな着ぐるみショーになってしまいそうなところ、まるでひとつの命がそこにあるかのような動物の動きを魅せ、瞳や表情を操ることなしに、俯き方や些細な仕草で感情すら手に取るように伝わってくるのが不思議。

そうして最後には、そこに生きている馬に完全に愛着が湧いてしまいます。
鳴き声も音響効果で出すのではなく、馬を操作している俳優が声を出す。
動きのみならず音まで馬そのもので、それらは馬への洞察力と愛情なしには描写しきれないと思う。
馬に入った役者は演じるいうより、一体化しているといったほうが近いような気がする。
また馬全体の形状は革で出来ていて、それを覆うように籐細工のような物で作られていて、
それが美術としてもうっとりするくらい美しいのです。

舞台上に大規模なセットや転換があるわけでもなく、どちらかといえばアナログな演出にも関わらず戦争の描写が驚くほどにリアルで痛々しく、半円状の舞台も手伝ってか観客を生々しい戦火に巻き込み、哀しみと恐怖に追いやる。
時折侘しくテーマとなる唄が男や女によってアコーディオンと共にただ静かに響き、それらは固唾を飲んで入り込んでいた我々を一瞬俯瞰させ、激動の時代とそこに在る愛や命を優しく包みこむのだ。

終始鬱蒼としたモノトーンの照明は、生と死のコントラストをそれぞれの心の目で浮き彫りにさせ、視覚的にはまたそれらは同時に紙一重のところに存在していることを暗示させているようだった。
第一次世界大戦中のフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ人の英語のアクセントの違いなども盛り込まれ、本当にこのような感じであったのではないか、と歴史的背景や当時の諸国の文化もにおわせる。


作りものの馬にしろ、デフォルメされた戦争描写にしろ、虚構に対して一度開き直って構築された芸術は心のフィルターを通して壮大な本物の景色を魅せてくれ、舞台でしか観ることのできない生きているライヴを観たような気がします。


このインパクトと感動はパペットの馬によるところが多分にありますが、
来年3月にはスピルバーグ監督による本作品の映画が日本公開されるらしいので、
また違った表現方法で観るのもひとつ楽しみでもあります。
by akiha_10 | 2011-12-03 17:22 | NY Journal
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